ポリオ不活化ワクチンQ&A(総論編)

 

なぜ今不活化ワクチンなのか

ポリオはポリオウイルスが口からはいることで感染する病気です。小児麻痺とも呼ばれるように主に四肢などの永続的な麻痺と萎縮を残します。有効な治療薬はなく有効な対策は予防接種だけという状況です。生ワクチンは流行時にはとても有効ですが流行の終息後はワクチンウイルスによる麻痺(ワクチン関連麻痺:VAPP)が問題になります。麻痺は接種を受けた人の100〜200万人に1人の割合で生じます。また接種者から排泄されたウイルスによって周囲の人に麻痺を起こすことがあります。

そのような性質を持ったワクチンなので流行が収まったあとはどの国でも不活化ワクチンに切り替わってきています。しかし日本は依然として生ワクチンの接種が続けられ麻痺患者を生み続けています。

百万分の1なんてわずかな危険ではないのか

わずか百万分の1,わずかな数ではないか,そう考える人がいてもなんら不自然ではありません。しかし貴方の子供に接種されたワクチンで子供や周囲の人が麻痺になってしまう,その病気を予防するために行ったはずのワクチンによってその病気になり永続的な障害を残してしまう,そんな不条理な出来事を大多数の健康ための人身御供だと冷徹に言い切れる人にはこれ以上の説得は無意味でしょう。

ここで問題にしているVAPP(ワクチン関連麻痺)というものは重い副反応(ショック症状など)と比較しても全く次元が違うものです。治療法はないのです。元に戻らないのです。そしてそれは不活化ワクチンさえ使っていれば決して起こらなかったことなのです。さらに強調したいのは生ワクチンによる数百万分の1という低い危険性は今後も引き続き安定して保証されるものではないということです。ある日ある時病原性を獲得したワクチンウイルスが多くの人にポリオを起こす,それは想像の世界の話ではなく実際にアフリカのナイジェリアで確認されている事実です。

では不活化ワクチンは安全だと言い切れるのか

不活化ワクチンの安全性は極めて高い,そう言い切れると思います。世界的には接種が始まって20年以上の歴史のあるワクチンですが,副反応による死亡例は報告されていません。しかし人間の体に尖った針を立てる以上ワクチンの薬理作用とは関係の無い有害事象が生じる可能性はやはりあるのです。たとえば,針を刺入しているときに子どもが補助者の制御を破って暴れて針の刺入部が深く傷ついたり,あるいは転倒して怪我を負い治療が必要になるような出来事が起きないとはいえないのです。もちろんそのような状況にも備えて我々は万全の構えで行いますが「100%大丈夫なのか」と言われたら「いいえ」としか答えられません。これはこの予防接種に限らず全ての医療行為がそうです。そのような出来事まで許容できないという場合にはもういちど接種をすべきかどうか考えなおしてください。上記の理由から子供を押さえる際には強めに押さえます。これは子供らの安全のためです。押さえられた部分の赤みがなかなか取れなかったという類のクレームは切にご容赦下さい。

なお有害事象が生じた際に,それがワクチンによるものだと認定された場合には輸入業者による補償制度があります(別紙参照)。ただし補償額は最大で2000万円という小さなものですから,よく考えた上で接種を決めてください。

不活化ワクチンの効果はどれくらいの期間持続するのか

これは実はとても難しい質問です。実は日本において生ワクチン2回の接種だけで生涯にわたって効果があると言われている背景には,接種後もワクチンウイルスを生涯の間に何度か浴びるだろうという予想があるからです。子供の時に生ワクチンを接種され,親になって子供の便からワクチンウイルスを浴び,老いては孫からウイルスをもらう。ウイルスを再度浴びることで落ちた免疫が再び上昇することを「ブースター効果」といいます。生ワクチンの接種が行われ続けることで日常生活に置いてもウイルスを浴びる機会が増え,それによるブースター効果によって年老いてもポリオの抗体を維持できるのです。ところが生ワクチンの接種が行われなくなると生活環境下のブースター効果がなくなりますから抗体価を維持できません。アメリカでは10年に一度の追加接種を推奨しているのはそのような理由です。

今後も生ワクチンが行われ続けるのなら,ブースター効果によって4回の不活化ワクチン接種後も生涯にわたって抗体を維持できるでしょう。しかしある時点から生ワクチンから不活化ワクチンに完全に切り替わってしまうと自然界にポリオ抗体産生を刺激してくれるものがなにもなくなりますから10年に1度は追加接種をして抗体産生を促す必要があります。これはポリオに限らずウイルス全般にいえることで,麻疹,風疹,水痘,おたふくかぜなども今後は成人後の追加接種が一般化していく可能性が示唆されています。

不活化ワクチンが普及することで自然界や生活環境からウイルスがなくなるのになぜ追加接種が必要なのか

天然痘のようにウイルスが完全に撲滅されたことが確認できればもうワクチンは要りません。問題はウイルスが撲滅されていないのにある地域だけがウイルスの空白状態が続いているときにウイルスが入り込んできた時です。2002年にマダガスカルで700人の死者を出したインフルエンザの激甚流行がその典型です。インフルエンザの抗体を全く持たない国に入り込んだインフルエンザウイルスの猛威は凄まじいものでした。つまりこの世の中にポリオウイルスがある限り抗体を維持することが必要だということです。

 

 

ポリオ不活化ワクチンQ&A(各論編)

 

すでに生ワクチンの1回目の接種を終えています。2回目以降を不活化ワクチンにすべきかどうか悩んでいます。

生ワクチンを1回接種したのであれば2回目の生ワクチンによって本人にワクチン関連麻痺が起こる危険性はほとんどありません。2回目の接種の危険性は接種を受けた本人よりも周囲の人の方が高いといえます。周囲に感染の危険がある人(ポリオワクチン未接種者,免疫力低下者)がいる場合は不活化ワクチンを強く勧めます。その場合は3回接種(約2ヶ月間隔で2回,3〜5年後に3回目)になります。

推奨される開始時期をかなり過ぎていますが接種はできますか。

問題ありません。原則的に接種方法は同じです(2ヶ月間隔で3回,3回目接種後の3〜5年後にもう1回)

不活化ワクチンを接種したあと,生ワクチンの接種を受けた直後の子供達と遊んでワクチンウイルスによって麻痺が起こることはないですか。

不活化ワクチンの効果が出てくるまでは感染の危険がないとはいえません。2回目の接種が終えていればほぼ安全といえます。

大人でも接種できますか。

できます。過去に一度でも生ワクチンを接種したことがあるのであれば4〜8週間隔で2回接種します。過去に生ワクチンを一度も接種していないのであれば子供同様に4回接種を行います。

不活化ワクチンの接種を4回終えていれば一生大丈夫ですか。

現在の日本のようにいわばポリオワクチンウイルスに汚染された状態では人々は何らかの形でウイルスに接してしまうのでそれによって免疫効果の増強(ブースト効果)があり一生効果が続くことが期待できます。しかし今後不活化ワクチンに切り替わっていくことでウイルスに接する機会が減っていくと免疫が下がりやすくなります。ワクチン先進国では10年に1回の追加接種を勧めています。

両親のうちどちらかが昭和50〜52年生まれです。親も不活化ワクチンを接種すべきでしょうか。

接種すべきです。その場合4〜8週間隔で2回の接種を行います。

アメリカでは生ワクチンから不活化ワクチンの移行期に,不活化ワクチンを2回接種した後に生ワクチンを2回接種する方法をとったと聞いていますが。

この方法では接種を受けた子供にワクチン関連麻痺(VAPP)が起こる危険性はほぼありませんが,周囲の人に感染を起こす可能性は残ります。

他のワクチンと同時接種はできますか。

医学的には他の不活化ワクチンと同時に接種できますが,補償を要するような副反応が生じた際の補償主体が異なるため同時に接種することはできません。このワクチンを接種した後に他のワクチンを接種する場合は1週間以上の間隔を空けてください。

接種の相談だけのために受診できますか。

可能ですが接種の相談のみの場合は保険診療ではなく自費診療扱いになります。通常の診療中にも説明はできますのでお問い合わせ下さい。