医師国家試験は簡単か

近々医師国家試験の結果が発表される。

遠い昔に医師となった身にはその結果が余生を左右するはずもないが,やはり気になるものではある。

私の母校(自治医大)は国家試験合格率においては他の大学の追随を許さないことを誇りとしている。そして,そのために学生や大学関係者が綿綿と続けている努力を知っている。もちろん母校贔屓はあるが,ディフェンディングチャンピオンの苦悩を知るものとして国家試験の結果は気になるし,毎年不安と期待とともに見守っている。

医師国家試験の合格率は90%ほどである。この数字をみてどう感じるだろう。公認会計士の合格率が10%ほど,税理士が15%ほど,司法試験が25~50%ほどである。「なんだ,医師国家試験って自動車免許の合格率と大差ないんじゃないか,そんな簡単なら医学部に入った人間の勝ちだな」と思うかもしれない。

もちろん,そんなに甘くない。

医学生を国家試験を受けられるレベルにまで鍛えるのに一人あたり6000万円ほどかかるという試算がある。育てるのに巨額な費用がかかるわけだから育てる前に苗を厳選する必要がある。100本の苗を育ててきちんと100本を出荷したいのである。500本を育てて100本しか出荷できないのであれば莫大な金の無駄になる。安易に多くの学生を入学させて国家試験合格率が下がると,私学の場合は国からの補助金が打ち切られることになる。学生の経済的負担も計り知れない。

厳しい方法で選抜された学生を6年間に及んで鍛えるわけだが,進級には単位をひとつとして落とすことも許されず,覚える量たるや膨大である。30年以上前,当時の自治医大学長(中尾喜久先生)は「書物の厚さにしてあなたの身長ほどになる」と語った。鴨居に頭をぶつけたとき以外では自分の身長が高いことを悔やんだ数少ない瞬間だった。

そのような修練が課せられるため,厳しく選ばれた苗でありながらストレートで卒業できるのは85%程度(大学による)といわれている。合格できるレベルに達した人間しか受けられない試験だから医師国家試験はあのように高い合格率になっている。それがからくりである。

国家試験の合格発表は3月19日,去年は胸を撫で下ろせたが,毎年のように心配である。(写真は今朝,3月にしては珍しく氷点下10度を下回った拙宅)