子供の風邪に薬は不要,は暴論

「子供は風の子」とは今は昔。

風邪をネタにするには旬を外しているが,基本思いついたままを文章にしている雑コラムなのでご勘弁を。

麻疹(はしか)拡散のニュースも一段落したようにみえる。

かつて麻疹は「命定め」といわれて恐れられていた病気。多くの子供の命を奪い髄膜炎による後遺症を残しました。その他にも怖い病気はたくさんあったわけですが,襲いかかる数多な瘴癘(しょうれい)を乗り越える運と免疫力に恵まれた子供だけが成長することを許されたわけです。そのような免疫学的淘汰が生み出した健康優良児が「風の子」だったわけです。

そして医療が発達した今,体の弱い子も生きられるようになりましたが,結果世間は「風の子」よりも「風邪の子」で賑わう時代になりました。そんな子供らで小児科や耳鼻科は市をなしているわけです。

毎月のように風邪で子供を受診させている親御さんも多いかと思います。医療機関によっては説教めいた説明を受けたこもあると思います。というかだいたい医者の説明というのは説教めいているのが普通です。ただ近年はかなり改善してきていると思います。子供や部下を持った人ならご存知の通り説教は概して有害です。

比較的多いと思われるのは「風邪は放っておいても治る,だから薬は要らない」というもの。医師限定の掲示板でも風邪ネタに対する意見としてよく出てきます。口には出さなくても市販薬にも劣る刺し身の具(つま)のような薬が処方されているような場合には,そこには同様のメッセージが含まれているとみていいでしょう。

「風邪は自然に治る」「薬では治せない」。ぐうの音も出ないほど正論です。風邪薬は治りを早めてもくれないし感染力を消してくれるわけでもない。

しかしたとえ医学的に正しくとも「風邪には薬なんて要らない」というのは暴論です。

医療に保険という公費が使われているのは国民の健康が国家の生産性に直結するからです。医療がなんらかの国益を生み出すから公費を使います。国益はお金だけではありません,国が精神的にも経済的も豊かになることが国益です。

介護も同じ。親の介護のために仕事を辞めたという話で分かるように介護は国民の生産性を落とします。介護もそれが何らかの国益になるからこそ公費で賄われているわけです。

つまり私が言いたいのはこうです。「いくら介護しても年々悪くなるばかり,だから治療はいらない」が暴論であると同じ理由で「風邪は自然に治る,だから薬なんて要らない」も暴論なのです。

たとえ風邪というちっぽけな病気であろうとも,子供が苦しむ姿を見るのは耐え難いもの。子供が風邪で安眠できないと家族も安眠できないわけで,場合によっては仕事を休む必要も出てきます。医療の本質的な目的が社会の生産性の確保と増進であることに鑑みれば,子供の風邪症状を楽にしてあげることは社会の利益を増す合目的な行為です。

逆に言えば,家族に負担が最小限になるよう風邪症状を緩和してあげるのでなければ子供の風邪診療は意味を持たないということ。粘液調整剤だけで茶を濁してはいけないということだ。だから風邪診療は興味深い。(写真は意味なく拙宅のトトロスノードーム)