クリニックから看護師がいなくなる

たいへんご無沙汰しております。諸般の事情で更新を止めていました。

先日地元紙に投稿した内容をこちらに転載します。これはおそらく全国規模で問題になる事項です。今後全国各地で問題が表面化すると思われます。

以下投稿本文———————————–

大館市では昨今既存のクリニックの廃業と新規開業が話題になっている。

私の知る範囲で,廃業は,眼科と耳鼻咽喉科と内科がそれぞれ1件ずつ,新規開業(予定も含む)は内科2件,心療内科1件,眼科1件である。もっとあるのかもしれない。

クリニックの廃業はその医療機関に通っている患者にすれば残念なことではあるが,新たな医療機関がそれに代わるのなら総合的には悪いことではない。多くの地方自治体が医師の不足に喘ぐ現下,新たな医療機関の設立は歓迎すべきことだろう。

しかし,このような変化に伴って以前より心配されていたある事態が表面化しつつある。

それはクリニックに勤務する看護師の不足である。その原因は直接には大館准看護学院が平成30年3月に廃校したことによる。

少し具体的に説明する。

まず初めに基本的な認識として正看護師と准看護師はどう違うのかという話であるが,ざっくりいえば,正看護師は高度な知識や技術が求められる看護職で,一方准看護師は看護の基本的な部分を習得することで得られる資格である。国家資格を習得するまでに正看護師は3年,准看護師は2年ということからも,その資格の性質や実際の医療の場で求められる具体的な仕事内容も異なるであろうことは容易に想像できるだろう。荒っぽく言えば正看護師は大病院の看護師で准看護師はクリニックの看護師と認識していただければ概ね間違いはない。

事のいきさつは次のとおりである。

事の始まりは平成17年の秋田看護福祉大学の設置にある。当学は正看護師を養成する看護学科を持ち,一方大館准看護学院は准看護師を養成していた。より高度な知識と技術をもった正看護師を育成することは社会の要請であり,正看護師を養成する機関と,短期の就学で資格を取得できクリニック等で即戦力になる准看護師の養成機関が同じ市にあることは総花的に良い結果をもたらすものと市民から期待された。

だがそうはならなかった。

その理由は複合的である。項目立てしてみる。

(1)雇用情勢の変化

働きたくても仕事がないという時代が長く続き,そのような状況に対応すべく少しでも早期に確実な資格を得たいという要請から准看護師資格の需要があった。しかし近年はどの職種も人手不足で,求職者の選択できる職種の自由度が増えた結果相対的に准看護職は不人気になった。

(2)正看護師と准看護師の資格取得はトレードオフの関係にある

正看護師になるか准看護師になるかは個人の選択の問題である。どちらかを選択すればもう一方は選択しない。基本的にどちらかが増えれば他方が減るという関係にある。

(3)正看護師が増えても准看護師の抜けた穴は埋まらない

大学の看護学部を卒業した新しい正看護師は大規模病院や中核病院での勤務を希望するのが普通である。某大学のアンケートによると,卒業後の就職先は上記の病院だけで90%を超える。正看護師が資格取得後直ちに開業医の戦力になることは,特殊なクリニック等を除けばまずほとんどないといっていい。

(4)閉院したクリニックスタッフの新設クリニックへの移籍は困難

閉院したクリニックの看護師を再雇用すれば良いのではという意見もあるだろう。しかし現実的な問題として,閉院するクリニックの多くは看護師の年齢が高い場合が多く,退職後に新しいクリニックに勤務したとしても様々な面で多くの困難を伴う。

以上は要因の主たる一部である。さらに多くの問題が複合的に関与している。

本問題は以前から水面下で生じていた。そして新規開業の林立によって表面化したのである。そして准看護師の養成施設がない今,この問題はさらに深刻化して市民に不利益が生じるだろう。

なにか現実的な手立てはあるのだろうか。

看護師資格のない者を雇用して,資格のない者でもできる範囲で業務を行ってもらい,点滴等の医療行為は医師が行うというのもあるだろう。だがこれはスムーズな診療の大きな妨げになるだろう。看護師はその医学知識をもって患者からの情報収集や医療機関間の情報交換に不可欠な役割を果たす。これは医学知識のない者にはできないことで,これらの業務をすべて医師が行うことが求められればまともな診療などできない。

何ら解決策を提示できないが,まず問題意識を市民で共有することから初めたい。